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2012年9月21日 (金)

忘れられない看護エピソード受賞作品(2012年度)最優秀賞 

「楽しい話とすてきな笑顔と安心を」

                      愛媛県 森田欣也さん

    (公益社団法人日本看護協会<協会ニュース>2012.6.15 Vol.539より引用)

 私にはまだ、五円玉の穴ほどの目、大きな口、だんご鼻、福耳、まぁるい言葉が残っていることを教えてくれた。

 ポキポキポキ。枯木でも折るような音が、青空に響き渡った瞬間、体の自由、心の自由、夢、生きる希望。すべて一瞬に失った。18歳だった私に突きつけられたのは、第3頸椎脱臼骨折というあまりにも厳しくて、受け入れることのできない現実だった。7年ほどの入院生活の後、四肢麻痺の障害が残ったまま自宅へ帰った私のところに、近所の小さな病院から、当時まだ珍しかった訪問看護師が来てくれるようになった。まるで壊れたロボットのような私に、毎回、毎回、毎回、楽しい話をたくさんしてくれていたある日、何かに気付いたように「俳句作ってみない? 次までに一句ね。」と指切りされた。

  来客の姿 日増しに 雪だるま

 そんな小学生の宿題のような俳句を「上手、面白い、うまいやん、すごい」と、とにかくほめてくれた。胸のあたりがなんかムズムズしてきた。

窓を開けると、鉛のような雲が、ひらがなのような雲に変わっていた。つくしやふきのとうがおいしく感じられた。雨ににおいがある事を知った。眠れなくて怖いだけだった夜も、虫の声に「必死に口説いているんだろうな」と、想像するだけで楽しくなってきた。

 来る日はウキウキし、来られない日はスースーする。これからも俳句を続けて、生きている証の本を「いつか絶対に出そう」という話にワクワクしてきた。百回の「ありがとう」に、百一回の「ありがとう」を返してくれる、その笑顔にドキドキする。そしてもうひとつ、大切な大切な心が残っていたことを教えてくれた。

 あの日から、20年近く経った今でも、心の訪問看護に来てくれている。楽しい話とすてきな笑顔と安心を、たくさんたくさん持って。

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