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2008年10月28日 (火)

「ゆうにゆうに まあるくまあるく」を読んで

「ゆうにゆうに まあるくまあるく」を読んで

玉 水 秀 孝

この本の著者、末永和之さんと当会とのご縁は、1992126日「北九州がんを語る会」設立大会開催の折、記念講演の講師としてお出かけ下さったのが最初です。当会の前身である「行橋がんを語る会」が故・浜口至さんのご尽力で設立されたのが1990624日ですから、行橋市で産声をあげてからおよそ1年半後の出来事でした。

当時のご講演の内容を詳細には憶えていませんが、この本の最初に触れられている詩人・岡博さんとの出会いが末永さんの医療者としての進むべき道を決定づけたこと、それは鮮明に記憶しています。私はその当時の記憶を蘇らせるべく「ゆうにゆうに」(ゆっくりゆっくり)拝読させていただきました。

「はじめに」において述べられているように「本来、ホスピス・ケアとは、病む人が自分らしく生き、自分らしく最後を迎えることができるように支援することであり、目の前の悩める人々へ手をさしのべるという社会運動」だったものが、いつしか医療機関のケアの一部分として特化されているのではないかという危惧を感じておられるのに、眼を開かされた思いがします。このことは、この本の構成に如実に表れていて、「いのちの輝き」「日本の精神性といのち」「いのちと脳とこころ」「がん医療と緩和ケア」「いのちの残照」という具合に、『人間であること』『人間として生きること』すなわち『人間存在の意味』のもとにある独一無比の「いのち」に思いを凝らし、心を尽くすことがホスピス緩和ケアの原点にあることを繰り返し説かれています。

従来の医療は、病気の診断や治療に際し、他の動物や生物と共通の、さらに生命科学の対象になるような『生命』に局限して行われてきたことは周知の通りですし、医療者も患者も同じ思いでしょう。しかし『生命』と区別される「いのち」と言われる時は、科学の対象とはなり得ない質的に飛躍した人間存在の根本にある「いのち」が含意されているように思われます。前者からは『闘病』という発想しか出てきませんが、後者からは『病との共生』という発想も生まれてきますし、死を敗北と受け取らず静かに受け入れることも可能でしょう。

このあたりの患者の微妙なこころの「ゆらぎ」が、岡博さんの詩の一字一句と余白にこめられているようです。

「神社で手を合わせる/寺院で手を合わせる そして/道ばたの/野佛には心のなかで…病に/克てますように 治りますように そして最後に/(小さく)/静かに死ねますように」

この岡さんの思いを全人的に受けとめて、看、護るのが医療に従事する者の本来の使命ではないかということで、緩和ケア医療に先駆的に取り組まれたのが末永さんであると思います。

人はそれぞれに人生観も異なるし、生活環境(歴史的・社会的)も異なるわけですから、西洋キリスト教精神に裏付けられたホスピスケアをモデルとしながらも独自の道を歩まなければならない。ここに末永さんの苦心もあるだろうし、しかし常に人と人との関係の原点(現点)に「いのち」と「いのち」のつながりが無条件にあることを洞察なさっているように思われます。ホスピス緩和ケアは、治療(キュア)が困難になった者にのみ施す行為・施設ではないということ、これが「今一度、ホスピスの意味を問う」と副題に控え目に添えてある末永さんの真意ではないでしょうか。この自然な流れの中から「認定施設での緩和ケアの提供だけでなく、有床診療所や地域の診療所と訪問看護ステーションとの連携のもとでの在宅緩和ケアの提供、あるいは緩和ケアチームによる一般病棟でのケアの提供、デイホスピスの提供など、幅広い形態で広がっていく必要があります。」と主張される所以でしょう。

さいごに、私がもっとも心動かされたことばを掲げて拙い読後感想を終わりたいと思います。

《看取られる人はその生き様、死に様を通して「いのちとは」ということを身をもって教えてくれているのであり、看取る側はその教えから、「いのちとは」、「死とは」、「生きるとは」ということを学ぶのです。そして今、看取る側であっても看取られる側になることに気づき、どんな看取られ方をしたいか、そのためにはどんな生き方をしなければいけないかを考え、生き方を真剣に考える。看取られる側も看取る側も、共に死にゆく存在であるがゆえに死を共有する。このことが「死」を通じての教えであり、「死」は「生」の教えであり、生死が紙の裏表であるといえる理由です。》

「ゆうにゆうに まあるくまあるく」 200881日 木星舎 刊

末永和之(山口赤十字病院 緩和ケア科部長)

20081017

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