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2005年5月11日 (水)

例会報告、特集記事等(野の花診療所まえ)

 「野の花診療所まえ」 徳永進著 講談社 

2002

 医師である徳永進さんは、2001年に、ホスピス機能をもつ有床診療所を開設しました。この本には、先生の診療所を拠点としたさまざまなエピソードが語られ、そこには、先生の医療者としての、全く気取りのない、ユーモラスで柔軟な、しかも真摯な人間の姿があります。そのなかに、「天国耳」というのが出てきます。診療所の病室で、お年寄り数人が先生の噂をしていた真っ最中に、突然先生が現れて、お年寄りから、先生は地獄耳だといわれてしまうのですが、先生は、その地獄耳ということばに思わず、立ち止まってしまいます。そして「天国耳」を思い浮かべます。その本文を紹介してみますね。(新木)

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(p.31~p.33

 .....。地獄耳かあ、と、トシばあさんの喘鳴を聞きながら思った。「ねえ、どうして地獄耳って言うの、天国耳ってどうして言わないんだろうね」とぼく。「発作の方、大丈夫でしょうかあ?」トシさん、それどころじゃないよと、心配顔。「発作は軽いし、小さい点滴しますから」とぼく。「先生、昔から耳は地獄耳です。地獄覚え、というのもあってね、一度聞いたら絶対忘れない、というのもあんのよ」とさららさん、なかなかの学者さんだ。

 詰め所に帰って、カルテに指示を書いて、ついでに『広辞苑』を開いてみた。びっくり。「地獄」については六十五行あるのに、「天国」は四行しかない。「地獄で仏」「地獄の沙汰も金次第」それに「地獄耳」など、地獄は雑踏街のようにいっぱいの言葉のお店が並んでいる。一方、天国は、「天国に鬼」

「天国の沙汰も金次第」などなく、「天国耳」もなーんもない、つまんなそうな、というかゴーストタウンのような街通り。人気ないんだ、天国って。地獄の方が抜群に人気あるんだ、と知らされた。でも一つくらいは天国にあげた方がいい。あげるんならやっぱり、「天国耳」がいいなと思う。

 人の言うことを聞くというのはやっぱり大変なことだ。大変な作業で大変な仕事だ。聞くには、聞く耳をもたねばならない。その耳があるのかないのかで、人の心が支えられたり、支えられなかったり、励まされたり、励まされなかったり、そして癒されたり、癒されなかったりする。

 人と人の心が通じるのは、しゃべることを沢山持っているかどうか、というより、聞く力をどれだけ豊かに持っているかどうかということだろう。そういう耳の名としては、地獄耳ではなく、天国耳がふさわしいと思う。

 また、誰に語ることもなく、人は語るものである。「将来なんになろう」

「どうやって生きていこう」「一体わたしのしたいことはなんなのだ」「こんな主婦生活、飽きてるよ」「女房のバカヤロウ」「父さんのあほんだら」「息子や娘のデクノボー」「夢は忘れない、追う」「おーい、雲よ、どこへ行くんだー」

 寝ころんで空の方に向かって語りたいたちだ。時には星に向かって。となると、それを聞いてくれる耳は決して地ではなく、天だろうと思う。だからやっぱり天国耳だよな。

☆       ☆       ☆       ☆       ☆

 この「天国耳」には、徳永先生の、なんとなくの2つの願望が含まれているのではないかと思います。診療所のなかで、さま ざまな人々の苦悩やそのなかからひたひたと湧きあがる喜びなどをともにするなかで、自分の耳も、なんとか「天国耳」であったらいいな、という思い、それと、先生自身がどうしようもなく弱音を吐きたくなったりなどした時に、どうか天国耳に聞いてほしいというような願望です。

 人は誰でも、ふとしみじみ語りたくなった時に、それを察知して、いつまでもいつまでも自分の話に耳を傾けてくれる存在が居てくれたら、こんなに心休まることはないと思うのです。やっぱりわたしも、先生のおっしゃるように、地獄耳より「天国耳」のほうがいいな、と思います。(新木真理子)

台詞

(

せりふ

)

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